picture by.空に咲く花

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャドウは目を上げて、上を見る。

そこには、目をきっしり詰めてもまた遥か遠く広がる、真っ白な空が。

 

 

―雪が舞い散っているのだ。

 

 

同じように、白くて軟弱な吐息が虚空に溶け込んで、雪の中で消し去ってしまう。

 

 

シャドウは誰を待っているのか。

ではないとただそこに立っているのか。

 

 

「……」

 

 

口を開けて小さく、呟いた。

自分の耳に届けそうでそうでもない小さな声は、多分誰にも聞けない。

こんなにも、広くて広い世界では。

誰も、何もかも。

 

 

それを知っていながらも、だけど、と。

シャドウはまだそこにいる。

 

 

誰かを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソニック…」

 

 

また、呟く。

だが、今度ははっきり。

シャドウは耐え切れなくてさっと振り向いた。

そこには、誰かいるようで、誰もいないようで。

 

 

何故か、涙が出るようで、シャドウはまた上を見上げる。

余りにも白い、雪の輝きのせいで。

余りにも白い、周りの世界が、何故か痛々しくて。

それでも来ない彼が、恋しくて、見たくて、触れたくて。

 

 

馬鹿馬鹿しい事だとはシャドウ自身も知っている。

会おうと約束も話もしていないのだ。

だけと、こんなにも彼、ソニックを待っている。会うことを期待している。

その理由はただ試すため。

 

 

―どこに居ても探し出してやるぜ?と言ったから。

 

 

こんな時だけは、一人で居ることは嫌い。

だが、自分で言うのは流石に出来なかった。

ソニックはそんな事を知っているんだろうか?

出て来て、笑って、名前を呼びながら、抱き締めてくれるんだろうか…?

 

 

そうしなくても良い。

だけどそれ以上にそうして欲しい。

愛してるから。それが言えなくても。心だけは通じていると信じているから。

 

 

だから、そう想って、いる…、から―。

 

 

「Hey、ここで何しているんだ?」

 

 

信じなかったわけではない。

不可能だと思ったこともない。

だけど何故か、シャドウは後ろから聞こえる声でリアリティーを持たない。

 

 

「返事位してよ?お前、どこへ行くなら言葉くらいは―」

「何故、僕を探したんだ?」

「え? そりゃまあ―」

 

 

後ろも振り向かないまま、シャドウの突然の問いにソニックは腐心する様な声を出す。

少し後、伝えなきゃならない物があるんだ、と呟くソニックの声が聞こえる。

その言葉に緩やかにシャドウが振り向く。

シャドウの視線に映るのは、白い白い雪に立っているソニックの青い姿。

それに、目に立つ赤くて小さな箱。

よく見れば、何となくその中に何があるかは予想が付いた。

 

 

「伝えたい本人が居ないと困るんだよ、これ。エミーにもやってないぜ?」

 

 

あいつにはちょっと別のやつやったから問題は一旦なしか、と付け加える。

ソニックが箱を軽く投げて、シャドウはそれを難しくなく掴む。

箱からはやっぱり、少しずつチョコレートの匂いがする。

いつの間にか近付いたソニックが声を掛ける。

 

 

「開けてみてもいいぜ?折角俺が直接作ったんだし」

「これを、君が?」

「Yes。感謝しとけよ?お前だから作ってみたんだ」

 

 

箱の中には、黒くて甘くみえるチョコレートが一杯入っていた。

作ったとは考えづらい位、上手なそれはもうシャドウの視線を奪っていた。

 

 

ありがとうと、シャドウはやっと囁いた。

それで十分なようにソニックは頷いて、同じようシャドウの耳に囁く。

I love youと、なんとも言った真心を。

シャドウは一度も言ってくれなかった本心を。

返すシャドウの言葉は知っている、という簡単な言葉。

でもソニックは何も聞かない。何も追及しない。

そういう無関心の親切を見せるから頼りたくて、甘ったれてしまう。とシャドウは考える。

 

 

「それはそれにして、本当にここ何で来たんだ?」

「それを言う君こそどう知って来た?」

「前にも言ったろ?お前がいる所は―」

 

 

―何処だって、風にも雪にも何でもなって探し出して行く。

 

 

ソニックのその言葉に、シャドウの心は震える。

そんな事を簡単に言うな、と思う。

どうしても離れなくなって、しまうから。

いつかは、必ず離れる時が来てしまうのに。

まるで、関係ないというように。いやきっとそう考えて。

シャドウはそんなソニックの視線は向かい合えなかった。

 

 

「あ、そう。今返事しなくても良いんだな」

「なら?」

「後で、3倍で頂く。That's all right」

「いや全然良くない。貴様、何故3倍も…!」

「え、だって、それがルールだし?」

「ふさけるな」

 

 

それだけ言って、シャドウはソニックを掠める。

さくさくとする音の中、ソニックが付いてくる気配が感じえなくてもう一度振り向く。

 

 

「何している。答え、返らなくてもいいか?」

「それ、嘘ではないな?」

「信じようと信じまいと僕には関係ない。」

「何だよそれ―。はっきり言えこのやろ!」

 

 

走って付いてくるソニックから、同じようにシャドウも走って逃げる。

先まではただ冷たくやってきた雪が、こんなにも快く感じる。

こんなことか幸せなのか、と思うのはもう何回目。

あいつが傍に居て、分かって、知りながら、少しずつ、目には見えなくても。

幸福が何処にいるかくらいは、薄々気付いて。また。

 

 

今日はいいお菓子もあるし、紅茶でもしないと、と思いながらシャドウは手に掴んだ箱を確り握った。